良質の用紙を安く消費者に提供し続けたい---。旭川印刷製本工業協同組合と北海道印刷工業組合旭川支部では、全国平均よりも高い北海道の印刷用紙価格を適正に見直してほしいと、昨年末から両組合に加盟する五十六社が「北海道価格解消キャンペーン」を実施。製紙メーカーや代理店、紙卸商に対して価格設定に関する意見や要望を積極的に提示しているほか、消費者である市民にも関心を高めてもらいたいとPR活動を展開している。両組合で理事長・支部長を務める則末尚大さん(61、第一印刷株式会社社長)と理事の井田多加夫さん(55、株式会社井田印刷工房社長)に、北海道における紙の価格の現状やキャンペーンについて話を聞いた。


---今回、キャンペーンを実施した大きな理由は。

則末 印刷用紙の値上げは、まず製紙メーカーが決め、そして代理店が賛同し、各都道府県にある地元の紙卸商が印刷業者に値上げを伝えてくる仕組みなんです。私たち印刷業者が反対してもなかなか聞いてもらえず、意見が通らない状況なんですよ。北海道では従来から全国平均に比べて印刷用紙の価格が高いんですが、それに加えて今、経済不況が続く中でこのまま価格が上昇していくと、これまでのように良質の紙を安く消費者に提供できなくなる可能性が出てきます。そうした現状に強い危機感があり、今回のキャンペーンを企画しました。

井田 これまでも業界組織の下から意見を吸い上げながら、製紙メーカーなどに要望を伝えてきましたが、なかなか現状を打破できない。それならば、消費者の人たちにも分かっていただけるような形で、広くキャンペーンをしたほうが、効果を得ることができるのではないかと思ったことも、実施した要因の一つです。


---北海道の印刷用価格は、全国平均に比べてどのくらい高いのですか。

則末 年に二回、全国各都道府県にある組合がまとめた印刷用紙価格の統計が公表されるんです。その中で例えば、上質紙の価格を見てみますと、一キロ当たりの全国平均が百四十八円。大阪は百三十一円で、東京は百三十五円なんです。一方、北海道はというと百六十五円の値が付いています。


---景気の低迷が続き、印刷業界も厳しいと聞きますが、こうした状況の中、印刷用紙価格の値上げは経営をさらに圧迫しますね。

則末 印刷業界は、不況の波をモロにかぶりますからね。不況下で、企業は社内の経費節減に取り組みますが、その場合、家賃などの固定経費や人件費を削ることは厳しいでしょうし、社員のボーナスを出さないとか給料を下げることもなかなか難しい。じゃあどうするかとなると、削りやすい印刷関係を優先するんじゃないでしょうか。最近は、パソコンの普及もありますしね。

井田 そうですね。ただ、チラシのような高い技術を要する印刷物においては、比較的落ち込みは少ないです。

則末 印刷用紙の値上げ問題については、どんな時も製紙メーカーからの値上げは一方的なんです。それも各メーカーとも足並みを揃えるように同じ時期に。特に最近は製紙メーカーの合併などで寡占化というか、独占化されつつあるという状況です。合併以前も価格協定みたいな事が疑われていましたけど、製紙メーカーからは「そういうことは一切ありませんよ」と言うことで、突っぱねられてきました。だけど、これからさらに合併が進めばこの先、ますます価格が一方的に決められる事が予想されます。だから、なんとかここで値上げをストップさせないといけないという危機感を、私たちは強く持っています。


---値上げはどの位のペースで行われているんですか。

井田 紙の種類は大きく分けると十数種類ありますが、一つの種類で二、三年に一回とか、四、五年に一回といったペースです。いずれにしてもペースは早い方だと思いますよ。今回は上質紙の値上げがありましたけど、これが一段落したら、他の種類の紙も後を追うように上がってくるでしょう。

則末 人件費や設備投資など、製紙メーカーや代理店、紙卸商にもそれぞれ値上げする理由があるのは分かります。だからといって私たち印刷業界が値上げを受け入れ、この厳しい経済不況の中、印刷代を簡単に消費者の人たちに転嫁する訳にはいきません。


---リサイクルが叫ばれている時代ですが、再生紙が普及すれば紙の価格も下がるでしょうか。

井田 再生紙の価格は、従来の紙とほとんど変わりません。再生紙は従来の製造工程と違いますから、これまではかえって高かったくらいで、ようやく最近になって同等に近い価格になりました。でも、それ以上に安くなる可能性は期待できないんじゃないでしょうか。ただ、価格問題とは別に、再生紙は地球環境を守るという意味で大切な事ですから、私たち組合でもリサイクルに力を入れていかなければと考えています。


---ところで今回のキャンペーンですが、どのような方法で展開しているんでしょう。

井田 昨年末にスタートしたばかりなので、本格的な活動はこれからといった感じなんですが、組合員たちが意見交換する場を多く設けて議論を重ねている所です。また、製紙メーカーなどへ要望書や質問書を提出し、その回答に対して今後の対応を検討しています。そして、消費者の人たちにも呼びかけて理解してもらおうと、組合のホームページに掲載したり、ステッカーを作って配布しています。組合に加盟している会社それぞれでも封筒にキャンペーンマークを印刷して使っているなど、かなり意識が高まっていますよ。


---これまでに反響などが寄せられましたか。

則末 まだ始まったばかりですけど、道内各地の業者から、「そういう方法もあるんですね」という反応が出始めてきています。このキャンペーンを通して他の地区の業界とも情報交換をしながら問題に取り組み、輪を広げていけたらと考えています。でも、今の段階では、製紙メーカーにとっては、私たち地方の小さな業界が動いても、蚊の痛みほども感じていないかも知れませんがね。ただ今後、地方の業界も抵抗し始めているということが伝われば、多少何か感じてくれるんではないかと期待しています。

井田 各都道府県には印刷工業組合が一つずつあるんですが、東京の組合では決起集会を開くなどして値上げに対して厳しく反発しているんです。ですから私たち地方の業界でも意思表示を明確にして、言葉だけじゃなく積極的に行動で示していきたいと思っています。これまでは製紙メーカーの値上げに対して理不尽だと感じながらも、抵抗しても変わらないだろうというあきらめムードがどこかにあったような気がしますけど、今回のキャンペーンでは、組合員の意識が以前とはかなり違います。


---キャンペーンによって、北海道の紙が高いというイメージが消費者に強調されてしまう心配はないですか。

則末 実際にキャンペーンを企画した時点で、組合員の中からそういう声もあったんです。誤解されて高いということだけが注目されたらまずいなと思いましたけど、一方、そういう視点で私たちが考えてはいけないのではないか、とも感じています。北海道には製紙メーカーがいくつかあるので、北海道は紙が安く入るんじゃないかと思っている人も多いんじゃないでしょうか。でも実際はそうじゃなく、「逆なんですよ」という事を理解してもらいたいと考え、キャンペーンに踏み切ったんです。製紙メーカーの事情による流通ルートで、北海道で製造しても東京へ運ばれ、そこからまた北海道に持ってくるから高くなるというのが理由のようですが、実際に動いているのは伝票だけのはずだと。こうした「北海道価格」がなくなれば、「今までよりも安く提供できるんですよ」という事を消費者の人たちに伝えたい。それと同時に、私たち業界人が印刷用紙の価格に対してさらに敏感になり、値上げの話に対して抵抗せずに応じるんじゃなくて、卸商やメーカーなどに対して緊張感を与えるように対応していくことが必要だと思うんです。


---そうした中、対策の一つとして組合の中に「印刷用紙のフリーマーケット」を開催したそうですね。

則末 紙はまとまった量を仕入れると安くなりますから、各印刷会社では何百枚単位で仕入れる事が多いため、余ってしまって倉庫に眠らせてしまう事があるんです。それを有効に利用するために業者間で持ち寄り、安く提供し合おうという事なんです。末端の私たちが自己防衛策を真剣に考えているんだと、製紙メーカーなどに対するアピールにもなりますから。

井田 倉庫に長く眠らせておいても、そのうち汚れが付いて使えなくなる場合もありますしね。それならば、紙をうまく業者間で回転させれば資源の有効利用につながりますし、ゴミの減量にもなりますから。


---最後に、今後のキャンペーンの取り組みを教えてください。

則末 このキャンペーンはホームページにも掲載しているんですが、私たち旭川だけの問題じゃなくて、全国各地の業界に知ってもらい、輪を広げていけたらいいなと思っています。そのことが、消費者の皆さんに安く紙を提供できることにつながりますから。製紙メーカーの理不尽な価格設定に対して、地方の私たち業者が真剣に問題をとらえていかなければならない時代にきているんです。

井田 派手ではないんですが、地道に長続きするキャンペーンにしたいなと考えています。私たちの印刷業界は地味な商売ですから、あまり派手なのは体質に合わないのかな(笑)。今は厳しい経済状況ですから、あまりお金をかけて大きな負担を背負えませんが、できる範囲の中で精一杯取り組んでいきたいと思っています。