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ラーメン随想

(2006年)

ラーメン随想

 仲通りから果物屋さんの横通りを入り、1件目の右のどぶ板をまたいで袋小路の奥の家。
 軒先に洗い張りの板が並んでいる。玄関を開けると裁ち板が見え、絎け台の横に針仕事をして母がいる。横通りの左、長屋の表側は酒に酔う人達が行き交う店が向かい合わせに並んでいる。
 その裏口を、早朝リヤカーで残飯を集めていくおじさんがいる。母はそのおじさんから少しの豚肉の塊と骨を買っていたのだろうか。年に1度か2度、いろんな野菜の皮と豚の骨が入った大きな鍋がストーブの上に乗せられる。
 ストーブがゆっくり燃えている季節のそのダシは、煮物などの料理のダシになり、何日かしたらラーメンのスープになる。
 アブクがプクンとはじけるくらいで、決して煮立てないダシはきれいに澄んでいて・・・・・。そのすっきりした味のラーメンが食べたくていろんなラーメン屋さんで食べてみるが、出てきたドンブリを見ただけで、違う!美味しく食べてもあの味ではない。我が家でスープを作ってみても何かが違う。キャベツの芯、玉葱の皮、長ネギの硬いところ、生姜の皮と豚の骨。後、何が入っていたのだろう。
 そう、あの時代ラーメンはすごいご馳走だった。
 そして多分「あの味のラーメン」というより、私は母が恋しいのだ。




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